
【スピンオフ】対話を「共創」に変える技術~裏面に潜む「複数の正義」を統合し、停滞を突破したある企業の事例
はじめに
前回のコラムでは、組織の停滞を打破し、自律的な進化を促すための具体的な手法として「QS対話(質問と要約)」をご紹介しました。
【QS手法:おさらい】
Q(Question/質問): 意見を否定する前に「背景にある事実」や「抱いている想い」を深く掘り下げると問い。
S(Summary/要約): 相手の言葉を自分のフィルターを通さず、丁寧に「鏡」として言葉にして返す技術。
「論破」を捨て、徹底して「聴き、返す」。このシンプルかつ強力な技術が、実際にどのように組織の行き詰まりを解消するのか。今回は、私が実際に関わったある企業の事例をもとに、その深層を紐解いていきます。
1. 表面化しない「裏面対立」という病理
その会社は、数年間続いた急成長が突如として止まり、売上が減少に転じ始めていました。
オーナー社長は焦り、役員や部長を集めては「このままではまずい!危機感を持て!」と激を飛ばし続けていました。会議の場では、誰もが「分かりました」「全力を尽くします」と答えます。しかし、一向に事態は変わりません。社長は「あいつらは本気でやろうとしているのか?」と、現場への不信感を募らせていました。
私が対話に入って見えてきたのは、真っ向からぶつかる「対立」ではなく、表面的には従いながら心の中では別のことを考えている「裏面対立」の状態でした。力関係で屈服させているだけで、誰も腹落ちしていない。これでは組織が動くはずもありません。
この「見えない壁」を壊すために用いたのが、QS技術による事実の深掘りでした。
2. 掘り起こ された「それぞれの正義」
私は、社長と各責任者に対して、QS対話を活用した個別インタビューを行いました。そこで浮かび上がってきたのは、立場によって全く異なる「象の全体像」でした。
① 社長のQS:その怒りの裏にある「恐怖」
私が社長に「なぜ、売上が下がるとそこまでまずいのですか?」と問い(Q)、返ってきた答えを丁寧に要約(S)していく中で、社長の本当の「事実」が見えてきました。
「急成長に合わせて巨額の投資をし、人件費も増強した。売上が目標を割れば資金繰りが立ち行かなくなる。そうなれば、かつて自分が経験した『リストラ』を再びしなければならない。社員の給与は絶対に守りたいんだ。この切迫した恐怖を、誰も分かっていない」
社長の正義:社員の雇用と生活を、何としても守り抜く。
② 商品開発責任者のQS:その沈黙の裏にある「危機感」
「今の売上減少をどう見ていますか?」と問うと、彼は声を絞り出しました。
「社長が言うことは分かる。でも、急成長の裏で、顧客の無理な要望に応えるマイナーチェンジばかりを強いられ、差別化できる新商品への挑戦を止めてしまった。今の売上減少は、わが社の商品の魅力が枯渇した結果なんです。今こそ未来への開発に舵を切らなければ、この会社で働く意味を感じません」
商品開発の正義:他社にない卓越した商品を作り、顧客に貢献する。
③ 人事責任者のQS:その独断の裏にある「忠誠心」
「なぜ、社長の指示通りに採用を強化しないのですか?」という問いに対し、彼は静かに事実を語りました。
「急成長の歪みで現場は疲弊し、退職者が急増している。かつて労働問題で訴訟になった苦い経験がある今、無理に人を増やせば組織は崩壊し、顧客の信頼をさらに失う。元上司であり恩人でもある社長を、これ以上のトラブルから守るのが僕の責任なんです。だからあえて、今は組織を固める時間を稼いでいます」
人事の正義:組織の崩壊を防ぎ、社長と会社をリスクから守る。
3. 「本音」 をぶつけるだけでは解決しない
こうした「裏面対立」が露呈したとき、多くの組織では「本音で話し合え」と言って直接ぶつけ合わせようとします。しかし、単に本音をぶつけ合うだけでは、多くの場合「つるし上げ」や感情的な対立の長期化を招き、組織はさらに疲弊します。
なぜなら、それぞれが「自分の正義」に固執し、相手を「間違っている」と決めつけたまま(A or Bの思考)議論をしてしまうからです。
4. 事実を「内包 」し、第3の道(C案)へ
QS対話の真骨頂は、ここからです。私はこの個別インタビューで得られた「それぞれの正義のストーリー」を、全員の場でありのままに共有しました。
ここで重要なのは、単に表面的な「賛成・反対」の意見を並べるのではないということです。それでは単なる言い合いに終始してしまいます。ポイントは、QS対話によって深く掘り下げられた「なぜその結論に至ったのか」という背景にある事実と、その裏側にある切実な想い(=正義のストーリー)をセットで共有することにあります。
もちろん、これらをただ提示すればいいわけではありません。このコラムでは詳述しきれませんが、場にいる全員が事実を客観的に受け止めやすくする「三角形パス(当事者同士ではなく、第三者である介在者を通した対話)」の手法や、お互いの視点を自然に内包できるストーリーの順番、視点の作り込みといった専門的な技術があってこそ、この「共有」は成立します。
こうしたプロセスを経て、それまでバラバラだった「個別の正義」がテーブルに乗ったとき、場に流れる空気が変わりました。
社長は、“開発現場の悩み”や“組織崩壊の予兆”を初めて知りました。
責任者たちは、社長の「リストラだけはしたくない」という切実な想いと、資金繰りの現実を知りました。
「お互いに、会社を良くしたいという『正義』で動いていたのだ」
この事実が全員に「内包化」されたとき、対立していた「売上(A)」か「組織再生・開発開発(B)」かという二択ではなく、両方の正義を同時に成立させるための「C案」への模索が始まったのです。
最終的に、この会社が出した結論は以下のようなものでした。
・3年後の売上回復を目指す新しい中期計画の策定(開発への投資を明文化)
・新商品完成までの期間、既存顧客を守るために営業部隊を再編し、現状を維持する。
・採用を抑え、現組織のケアを優先し、サービス品質を回復させる。
結果、バラバラだった組織の目線は一体化したのです。
5. 結 び:まじめな人々が報われる組織へ
私の経験上、どんな組織であっても、会社をダメにしようと思っている人などほとんどいません。皆、自分の立場で見える景色(正義)に従って、まじめに、前向きに取り組んでいるのです。
それなのに組織が停滞してしまうのは、単に「相手の正義」が見えていないだけなのです。
QS対話は、バラバラになった「正義のストーリー」をつなぎ合わせ、一つの大きな「象の全体像」を描き出す技術です。AかBかという勝ち負けを捨て、お互いの事実を内包したとき、組織は初めて一体となり、誰も想像しなかったような「最善の選択(C)」を導き出すことができます。
あなたの隣にいる「話が通じない相手」は、もしかすると、あなたには見えていない別の角度から、会社を守ろうとしているだけかもしれません。その裏にある「正義」に、まずは問いを投げかけることから始めてみませんか。
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